「橋本市長は「会社、従業員、市民が心をあわせればチッソの再建はできるはずだ」と強調、広田市会議長は「これまでも不幸な人たちにはある程度のお手当はしてきた」といい、松田漁協組合長はただひたすら「いまの魚は安全です。安心して食べてほしい」と訴えた。
それはまことに異様な大会であった。
・・・山口義人氏は、この大会で唯一とも思える“肉声”で訴えた。
「公害認定されてから工場ひきあぐるなんちゅう社長はどぎゃんかい。チッソの社長ともあろう人がこっじゃ困る」
しかし、まったく皮肉なことだが、この市民大会の数時間後、江頭チッソ社長は「全面撤退などありえない。誤報だ。現に新工場も完成したばかりだ」と記者会見で答えていた。」
(石牟礼道子『苦海浄土 わが水俣病』)
人間がほぼ住めなくなるという意味で、国土の一部を消失させるという代償を払ってまでもなお、僕たちは、原発による電気を選びました。
これほどの、「売国的行為」はないといってよいでしょう。すみかを奪われた人たちの「内なる領有権問題」は、威勢の良い「対外的な領有権の主張」のようには注目もされず、「ある程度のお手当」で済まされることが目に見えています。