本 『一時保護所の子どもと支援』 安部計彦編著 2009年 明石書店

 タイガーマスク現象で、児童養護施設がクローズアップされました。
 児童養護施設には、約3万人の子どもが暮らしています。では子どもたちは、施設にはどうやって入所していくのか? この入口に、児童相談所と、一時保護所が関わります。

 児童相談所に附設された一時保護所には、緊急避難的に入所している子どもが、全国で1日あたり1,300人にのぼり、増加傾向にあります。

 具体的には、2歳から17歳まで、棄児や家出など保護する大人がいない子ども、虐待されている子ども、非行で警察から身柄付通告された子どもなどが、「混合処遇」されています。

 子どもたちは、原則として外に出ることができません。性的加害を行った児童、非行児、虐待されていた子どもなど、多様な年齢と背景を持つ子どもたちを、狭い空間で一体的に扱うには無理があるだろうことは、素人が考えてもわかります。
 一時保護所は子どもを「安心・安全」に保護する場所でありながら、本書でも暴力問題への対処に相当のページが割かれていることから、実際の現場の状況や職員の苦慮が想像されるところです。
 それでも、一時保護所の施設・職員配置基準は、児童養護施設の最低基準を準用することとなっており、「その結果、全国の一時保護所で悲惨な状況を生む要因になっている(同書より)」。

 そして、「一時」保護といいながら、その入所期間は長期化しています。大規模な一時保護所の平均は約35日です。法的には2か月まで、ただし延長も可能です。
 外出もできず、自由を奪われ、そして、この間、子どもたちは、学校に行くこともできません
 かといって、一時保護所内で充分な学習が保障されているわけでもありません。一時保護でなすべき事柄は多々あるとはいえ、この「教育問題」は深刻な課題として受け止めるべきと思っています。

 最も専門的で手厚い対応が必要な場所が、劣悪なまま放置されています。

 本書は、調査をベースとした冷静な筆致で、素人の僕でも一時保護所の全貌がよくわかるものとなっています。なおかつ、今後の方向性の提言も含めて書かれており、バランスの良い本だと思います。

『一時保護所の子どもと支援』 目次
第1章 一時保護所の機能と抱える課題
 第1節 いま一時保護所で何が起こっているか
 第2節 一時保護所の法的位置づけと全国の状況
 第3節 設備と職員体制
第2章 一時保護所での対応とケア
 第1節 対応困難場面発生の構造からみた規模と職員配置
 第2節 暴言・暴力問題への対処
 第3節 アセスメントとケア
 第4節 性的虐待を受けた子どもへの配慮
 第5節 身柄付通告の非行児童への対応   
第3章 子どもたちの権利は守られているか
 第1節 児童相談所一時保護所における学習の実態
 第2節 入所児童の権利保障と安全の確保
 第3節 一時保護中の子どもたち
第4章 これからの一時保護所のあり方をめぐって
 第1節 あるべき一時保護所像 一時保護所の運営全般ガイドラインの提案
 第2節 一時保護開始時のオリエンテーション・マニュアル
 第3節 個別暴力場面での対応
 第4節 集団での暴力・反抗場面への対応と集団からの分離マニュアル
 第5節 学習の時間のガイドライン
 第6節 一時保護所に関する心理的業務への提言
 第7節 一時保護と委託一時保護

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